11月に入ろうとしているのに、鬼怒川の木々は緑のままであった。今年の紅葉は、例年より1週間ほど遅いという。
Sは、国道121号を鬼怒川温泉に向かってクルマを運転していた。国道のすぐ左側には、東武鉄道日光線が並走している。
クルマを飛ばしていると、日光線に青色の客車が走っているのが見えた。特急列車も通勤電車も、機関車が客車を引くという時代は終わってもう長い年月がたつので、Sは客車というものを見たことがない。
客車の前方を見ると、黒い鉄の塊が見える。SLが客車を引いていた。動くSLを見たのは、これもまた初めてである。
SLは思った以上にゆっくり走っていた。煙突から煙を吐き、蒸気を吹き出し、せわしく車輪を動かしているので、高速で動いているようだが、実際は30キロくらいのスピードである。
Sのクルマはすぐに客車の後ろに追いつき、そのまま客車と並走した。何秒か客車の横を走っていると、先頭で客車を引いているSLと並んだ。
SのクルマはSLを追い越した。精一杯の力を出している鉄の塊は、だんだん後ろへ去っていった。
SLを
追い越すクルマ
運転す
スピードだけが
大事じゃない
